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神様がくれたラインスタンプ

作者:木村啓之介

 

休日の醍醐味(だいごみ)は、二度寝にあると神田タカシは思っている。
 

日曜。
今日も平日と同じ時間に目を覚ましたタカシは、起き上がることなく、再びまどろみの中へ落ちて行った。ウトウトしながらも、考えるのはラインスタンプのデザインだ。
タカシは、会社員の傍(かたわ)ら、ラインスタンプの制作・販売を行っている。昨夜も遅くまでグダグダ頭を抱えて頑張ってみたが、思ったようなものはできなかった。
夢なのか、現実なのか分からない意識の中、タカシはまばゆいばかりの光を感じた。黄金(こがね)色の光は床のほうからやってきて、次第に高くなってくる。光は更にまぶしくなったあと、光度を落とした。
光が落ち着くと、バスローブのような白い服を来た老人が立っているのが見えた。
「悩んでおるようやな」
思ったよりも高い声の老人は、なぜか関西弁を話した。
「え、ええ……」
タカシは曖昧(あいまい)に返事をした。
 

悩みとしては、ふたつ。
ラインスタンプがちっとも売れない点、抜け毛が目立って多くなってきた点の二つだ。
「悩みを解決してやろうやないか」
老人はおごそかに言い切る。
「そう言うあなたは、もしかすると、神様ですか?」
どうせ自分の夢の中だ。バカバカしいような内容でもスラスラと問い掛けることができる。
「いかにも。それで、どちらの悩みを解決して欲しいんや?」
悩みが二つあると知っているところは、さすが万能の神、と言いたいところだが、夢の中の創作物に過ぎない。自分で自分の悩みを知っているのは当然だ。
「ならば、売れるラインスタンプをお授け下さい」
神様の形をしているのは、タカシ自身の潜在能力だ。ヒョウタンから駒、というコトワザもある。もしかしたら、すごいアイデアが浮かぶかも知れない。
「いいやろ。ただし、ひとつ条件がある。ラインスタンプがひとつ売れるたびに、髪の毛二本を貰う」
「何ですって」
潜在能力が訳のわからないことを言う。タカシは、思わず聞き返した。
「頭の悪い人間は嫌いや。言葉の通り。スタンプひとつにつき、二本の髪が抜ける。人は何かを得るためには、何かを失う必要がある。承知やな」
「ええ……」
妙な夢だと思いながら、タカシは頷(うなず)いた。すると、
「では契約書にサインや」
神様は紙を差し出した。タカシは、促(うなが)されるまま、サインした。契約書を大事そうに受け取った神様は、にっこりと笑って、消滅した。途端に、目が覚めた。
 

起き上がる。右手には、さきほど握ったペンの冷たい感触がまだ残っている。
「リアル過ぎる夢だったな」
ひとり、呟いたタカシは、ふと机の上を見て、声を上げそうになった。机の上には、描いた覚えのないラフスケッチが載っていたからだ。
昨夜はビールを飲みながら考えていた。きっと、酔って覚えていないだけなのだろう。タカシは思いなおして、スケッチをマジマジと見た。
たいしていい出来とも思えないが、とりあえず、ストアに並べてみたところ、これまでの売り上げを瞬く間に、更新した。
心配になって、鏡を覗(のぞ)くが、目立って髪が減っている様子はない。
ほっとしたタカシだが、月末になって驚愕(きょうがく)の出来事が起こった。毒でも盛られたかのように、大量の髪の毛が抜けたのだ。半端な数ではない。薄毛というよりも「ハゲ」に近くなった。
そのとき、思いついた。今日はストアの締日だ。売れる都度、抜け毛があるのではなく、月末一括請求だったのだ。
スタンプは百二十円で販売していたから、髪の毛一本を六十円で売っていたことになる。
タカシは慌(あわ)ててストアから問題のスタンプを削除した。
 

その夜、再び神様が降臨(こうりん)した。
「売れ筋のスタンプを外して、どないしたんや」
神様は相変わらずの関西弁で訊いてくる。
「どないも、こないも、こんなに毛が抜けては真性(しんせい)ハゲになってしまうじゃないですか」
「それは納得済みのはずや」
「まさか本当だとは……」
「酔狂でこんな手を込んだ真似をしておると思ったんか。いずれにせよ、こちらには契約書がある。お前の頭に毛がある限り、途中でやめさせる訳にはいかへんで」
「そんな―――」
タカシは、ツルッパゲになった自分を想像して、言葉を失った。
「妥協案がないでもない」
 追い込まれたタカシを見て、神様は幾分、声を潜(ひそ)めた。
「ぜひ、お願いします」
 怪しいと思いながらも、すがるしかタカシに選択肢はない。
「人から髪の毛を貰うんや」
「え?」
タカシにはまったく意味が分からない。
「またスタンプを授けてやる。薄毛に悩んでいるといったキャラだ。そこに注釈を付ける」
「どんな内容の注釈ですか?」
嫌な予感がした。
「『このスタンプを使った人は三本髪の毛が抜けます。そのうちの一本は私に寄付されます』と書くんや」
スタンプを使う者は、ジョークだと思うだろうが、実際には抜け毛があるに違いない。
「そんなことをすれば、多数のクレームが寄せられるんじゃないでしょうか」
「気になるんだったら『髪の毛のため、使い過ぎに気を付けましょう』ともう一文続けておけばよい」
結局、押し切られて、タカシは新しいスタンプをストアに並べた。想像以上に高評価で、売れ行きは好調。しかも、月末には多数の髪が帰って来た。クレームも来ていない。誰も、注釈を本気になどしていないのだ。
いまのところ、いいところばかりだ。それでも、タカシは不安だった。いつかユーザーが「髪の毛を返せ」と押し掛けてくるのではないかと、びくびくしていた。
落ち着かない毎日の中、三度(みたび)、神様が姿を現した。
「神様ならば面倒な真似をせず、髪の毛など好き勝手に調達すればよいのではないですか」
タカシはこのところ、ずっと考えていた疑問をぶつけた。
「神様とは誰のことや?」
相手は表情も変えずに、聞き返す。
「俺が『神様ですか?』と聞いたら頷いたじゃないですか」
「そいつは、お前の勘違いや」
「では、あなたはいったい何者なんですか!」
タカシの声が大きくなった。
「わいは、髪の毛の精霊、髪様や」
その返答に目を見開いたタカシの悩みは、まだまだ続きそうだった。



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